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大阪大学 接合科学研究所          (田中研究室)

エネルギー制御学分野

Research works

 高密度エネルギー源の特性と、その高度制御およびエネルギー輸送の最適化、さらには高密度エネルギー源と材料との相互作用について基礎的研究を行うことにより、高精度・高機能材料加工のための新しい高密度エネルギー源を探求する。特に、溶接、切断、加熱、高温反応、表面被覆、物質合成、複合微粒子創製などにおいて代表的高密度エネルギー源として幅広く応用され、新しく熱プラズマによる材料プロセスという概念を生み出しつつあるアークプラズマの発生、制御および熱輸送現象に関して物理的化学的検討を加える。


画像分光法によるガスメタルアーク溶接における動的プラズマ挙動の観察

  ガスメタルアーク溶接は、溶着金属となる細系ワイヤを消耗電極として連続的に供給しながら行う溶接法であり、自動化・ロボット化にも適した高能率な溶接法として自動車等の製造業をはじめとした様々な工業分野において利用されています。電極である溶接ワイヤと母材との間に1万℃を超える高温のアークプラズマを発生させ、その熱エネルギーを利用して溶接部および電極を加熱・溶融する溶接法であるため,溶滴の移行を伴います。溶滴移行とは,電極ワイヤが溶融して先端に金属液滴を形成し,重力や電磁気力といった力を受けてワイヤから離脱して溶接部へと移行する現象です。この動的な移行プロセスに伴って流れ方・エネルギー分布・電磁場も変化するため、アークプラズマも動的な挙動を示します。逆に、アークプラズマの温度や流動の変化によって溶滴内への入熱量も変化するので、高品質な溶接を実現するためにはアークプラズマ現象を詳細に理解し、コントロールすることが求められます。私達の研究グループでは、下の写真に示すようにアルゴンプラズマ域とメタルプラズマ域のそれぞれに適した画像分光に基づく温度計測法を適用することでアークプラズマの状態を計測し、溶接プロセスを決定付ける溶滴移行形態とアークプラズマの動的挙動の関係性の解明に取り組んでいます。左下の二図は当計測システムによって得られたアルゴンプラズマの放射光分布および温度分布を、右下の二図はメタルプラズマの放射光分布および温度分布を示しています。アルゴンプラズマはアークの中心付近ではなく、メタルプラズマを覆うように存在していることがわかります。またその温度は最高で約13000℃以上に達しています。メタルプラズマはアーク中心近傍に存在し、その温度は約6200-7200℃と、アルゴンプラズマの温度と比較して低温となっていることも明らかとなってきました。(茂田)


アークプラズマ光学計測システム


           

    アルゴンプラズマの放射光分布および温度分布        メタルプラズマの放射光分布および温度分布
関連論文
茂田 正哉, 中西 省太, 田中 学, Anthony B. Murphy:"画像分光法によるガスメタルアーク溶接における動的プラズマ挙動の解析", 溶接学会論文集, 33巻, 2号, (2015), pp. 118-125.溶接学会論文賞」受賞

溶接アーク現象,溶融池現象,および溶接輸送現象解析

 近年の数値解析の進歩は,溶接アーク現象の定量的な理解に大きく貢献している.特に,ガスタングステンアーク溶接では,完成度の高い数値解析モデルが登場し,熱・物質輸送やそれに伴う溶込み形状など,生じる現象を精度よく予測できるまでに至ってきた.しかしながら,ガスメタルアーク溶接では,未だに十分な数値解析モデルがなく,実際の現象に対して矛盾のない解析結果は得られていない.これは,消耗電極である溶接ワイヤ端での溶融,溶滴形成,溶滴離脱,と言った一連の溶滴移行現象が複雑であることと,ワイヤ端で発生する金属蒸気がプラズマ気流によってアークプラズマ中心部に輸送されることにより,アークプラズマの状態が大きく変貌することにある.
 そこで本研究では,複雑な溶滴移行現象のモデル化については避けるものの、ワイヤ端とプラズマのエネルギーバランス、溶滴による溶融池への熱輸送、ならびにワイヤ端での金属蒸気挙動を考慮に加えた、ガスメタルアーク溶接の簡易的な統合モデルを構築し,これを用いて数値計算ミュレーションにより,金属蒸気の影響を受けたアークプラズマがエネルギーバランスや母材への入熱にどのような影響を与えるのかといったガスメタルアーク溶接の熱源特性を検討した.その結果,ワイヤ端から発生した多量の金属蒸気が混入することで放射によるエネルギー損失が大きくなり,アークプラズマ中心部のプラズマ温度が低下することが明らかとなった.また,これの影響によりアークプラズマから母材への入熱密度は,中心から離れた位置において最大値を示すことがわかった.しかしながら,溶滴移行に伴い持ち込まれる入熱や溶融池対流の影響により,溶込みは中心が最も深くなることが示された.(田中)


   

      アークプラズマ温度分布               溶融池の形状および熱流動場
関連論文
辻村 吉寛, 田中 学:"数値計算シミュレーションによる金属蒸気挙動を考慮したGMA溶接の熱源特性解析", 溶接学会論文集, 30巻, 1号, (2012), pp. 68-76.

狭窄ノズルを用いたガス流制御によって実現する革新的なティグ溶接の開発

 コンピュータやタブレット端末等の電子デバイスに用いられる板厚の極めて小さい金属材料の溶接に対して高いクオリティと信頼性を有する溶接技術として、狭窄ノズル付きティグ溶接という新たな溶接法が近年提案されました。狭窄ノズル付きティグ溶接ではタングステン電極と標準ガスノズルの間に銅製のノズル(狭窄ノズル)を装着し、シールドガスを内側・外側の層に分けて供給します。ここで、シールドガスの流れを独立して制御することでアークプラズマは緊縮し、ビーム状の集中熱源としての効果が得られます。 我々は狭窄ノズルがアークプラズマ現象に与える影響を明らかにするために、狭窄ノズル付きティグ溶接の数値解析モデルを構築し、数値シミュレーションを行っています。 内側の層に高速のシールドガスを流すことで、その冷却作用により広がりを抑えられたシャープなアークプラズマが得られ、プラズマ温度は従来のティグ溶接に比べ高温となることが示されています。この特長により必要な箇所に必要な量だけエネルギーを投入することが可能となります。また、プラズマ気流の流速も大きく増加し、溶融池から生成する金属蒸気の拡散を抑え、効率よく排除できることも確かめられています。このように狭窄ノズル付きティグ溶接では高エネルギー密度かつ安定したアークプラズマを得ることができ、従来のティグ溶接では困難とされている板厚の極めて小さい金属材料の溶接が実現されます。(小西)


    

       狭窄ノズル付きティグ溶接トーチ           突合せ溶接後の極薄板銅合金(板厚:50 μm)


アークプラズマの温度分布

関連論文
小西 恭平, 茂田 正哉, 田中 学, 村田 彰久, 村田 唯介:"ティグ溶接における狭窄ノズルのアーク現象に及ぼす影響", 溶接学会論文集, 32巻, 2号, (2014), pp. 47-51.

粒子法による溶融池対流現象の数値解析

 溶接中に母材が溶融することで形成される溶融池の対流は溶接部の溶込みの形状を決める重要な現象です。しかしながら,溶融池内部の対流現象は実験観察によって調べることが難しいため、数値シミュレーションによる現象の解明が多く試みられています。 この数値シミュレーションを行う新しい手法として,粒子法が近年注目されています。粒子法は離散化がシンプルであるため現象の数値モデル化が容易であり、また計算格子を用いる手法では解析が難しい大変形を伴う現象のシミュレーションが可能であるといった特長があります。 GMA溶接中の溶接線に沿った断面を計算対象とし、2次元空間でシミュレートした例を示します。左下の図は母材の温度分布を示しており、融点(1750 K)を超えていない固体粒子は灰色で、融点を超え液体となった粒子はその温度によって色付けしています。溶滴の落下開始位置は熱源の中心を示しています。計算結果から、時間の経過と共に熱源が移動し、これに伴って溶融池が後方へ広がりながら余盛を形成するという実際のGMA溶接で見られる現象が再現できていることがわかります。 右下の図は溶滴が落ち、次の溶滴が落ちるまでを一周期とし、アンサンブル平均処理を施した溶融池内部の速度場を示しています。白の破線は熱源の中心位置を示しています。熱源の中心で発生した溶滴が溶融池へ輸送されることによって溶融池内の速度の大きさと向きが時々刻々と変化することがわかります。 粒子法を用いた数値解析モデルは金属の溶融・再凝固を伴う計算も容易に取り扱うことが可能であることが示されています。現在、当研究グループでは溶接プロセスにおける様々な現象に対して粒子法を用いたモデル化を行ており、数値解析による現象の解明に取り組んでいます。(古免)


  

   GMA溶接中の溶融池温度分布および余盛形成過程         アンサンブル平均処理を施した速度場
関連論文
古免久弥, 茂田正哉, 田中学, 福西祐:"GMA 溶接における溶滴輸送を伴う溶融池対流の非圧縮性 SPH シミュレーション", 溶接学会論文集, 33巻, 4号, (2015), pp. 332-340.

熱プラズマ近傍における溶接ヒューム(ナノ粒子群)の集団成長メカニズムの解明

 アーク溶接中には常に溶接材料の融液が存在するため、母材の溶融池表面と、ワイヤを供給する場合には溶接ワイヤ先端部および溶滴より高温の金属蒸気が発生します。この高温の金属蒸気がアークプラズマの周囲へと輸送される過程で急速に冷却され、サブナノメートルから数百ナノメートルの微小な粒子(ナノ粒子)へと相変化します。アーク溶接部から煙状のものが放出される様子がしばしば観察されますが、これはナノ粒子の集合体であり溶接ヒュームと呼ばれています。溶接ヒュームは、溶接作業者の健康に影響を及ぼす可能性があるため、その低減化がアーク溶接における重要な課題の一つとなっています。一方でアーク溶接は、工学的に価値の高いナノ粒子をアークという熱プラズマを用いて多量にワンステップで創製できる手法の一つであるとの見方もできます。いずれにおいてもナノ粒子群生成の詳細なメカニズムの解明と粒径を制御する技術が求められています。しかし、熱プラズマ周囲におけるナノ粒子の集団的な生成・成長は均一核生成・不均一凝縮・粒子間凝集を経るマイクロ秒スケールの物理過程であり、実験計測が困難です。そこで当研究グループでは、粒子群が数桁に渡る直径差を有していても、さらには粒径分布がいかなる形状をしていたとしても、均一核生成・不均一凝縮・粒子間凝集を経る集団的な生成・成長過程を計算できるモデルを用いて、数値解析によってアーク溶接時に生じるナノ粒子の生成・成長過程の解明に取り組んでいます。例えば、下の図に示すように、ナノ粒子は初生期に均一核生成および不均一凝縮により急成長し、蒸気の消費後は粒子間凝集によって成長を続けることが明らかとなっています。(茂田)


アーク溶接におけるナノ粒子群生成過程の概略図



ナノ粒子群の粒径分布の時間変化

関連論文
茂田 正哉, 三宅 正誉志, 田中 学:"アーク溶接時に発生するヒューム一次粒子群の集団成長過程の数値解析", 溶接学会論文集, 33巻, 4号, (2015), pp. 365-375.

 また同様の仕組みで、別のタイプの熱プラズマを用いてナノ粒子を創製することも可能です。1万℃を超える熱プラズマによって材料を瞬時に蒸発させ、その蒸気を含む熱プラズマ流を急冷することで、左図のように核生成を促進しナノ粒子群を一気に大量生成することができます。ナノ粒子は均一核生成・不均一凝縮によって生成・成長すると同時に、ブラウン運動などの影響でナノ粒子同士も衝突し凝集成長します。さらに移流・拡散・熱泳動による輸送現象もナノ粒子の最終的な品質に影響を及ぼします。上述のとおり、高速で複雑なナノ粒子の集団的な成長過程を実験的に直接計測することは困難ですので、数学的な現象の定式化とその数値計算が有効な手段となります。プラズマ流と急冷ガスの衝突面で均一核生成により大量の小さなナノ粒子が生成します。小さなナノ粒子は流れによって下流へ流されていきますが、周りの蒸気が凝縮しますので成長して大きくなっていきます。また同時にナノ粒子間凝集によっても合体成長ですので粒子数は減少します。大きなナノ粒子ほど下流部に多く存在するものの、その数が少ないのはそのためです。(茂田)


     白金(プラチナ)ナノ粒子の空間分布
関連論文
Masaya Shigeta and Takayuki Watanabe: "Numerical investigation of cooling effect on platinum nanoparticle formation in inductively coupled thermal plasmas", Journal of Applied Physics, Vol. 103, Issue 7, (2008), pp. 074903 (15 pages).