1.950MPa
級高張力鋼の溶接金属の組織解析 
市販の高張力鋼において950
MPa級鋼は、最高強度を有するものに属しその溶接構造物への適用は、大型鋼構造物の軽量化や高信頼性化の観点から大いに望まれている。しかし,その溶接
金属の微細組織は,まだ良く理解されたとは言い難く,靭性の改善策の基本方針とも関係する問題となり、950
MPa級高張力鋼の広範な適用を妨げる一因となっている.そこで本研究は,950
MPa級高張力鋼の溶接金属に対して,光学顕微鏡、走査電子顕微鏡,および透過電子顕微鏡法を組合せて適用することによって,その組織を解明し、さらにそ
の機械的特性との関係を明らかにすることによって,組織の最適化のための指針を示そうとしている。
このため、構造物の製造に広く用いられているGMAW溶接金属を取り上げ、大型構造物の製作に不可避である厚板の多パス溶接において、溶接諸条件が溶接
金属の組織と機械特性に及ぼす影響を検討した。溶接金属の組織は,主にマルテンサイトとベイナイトとから成り、さらに後者はラス状(微細)と非ラス状(粗
大)に分類されること、またいずれにも残留オーステナイトが多量に含まれるが、その形態は前者ではラス間の膜状で、後者では粗大な粒状であることが分かっ
た。シールドガス組成、溶接入熱、パス間温度、後続パスによる再熱等にによりこれらがどのような影響を受けるかを検討している。また、変態組織に対する凝
固ミクロ偏析の影響が無視できないこと等、新しい金属学的知見も得ている。
2.錫の固相拡散接合 
はんだ合金の主成分である錫の酸化皮膜が、接合界面でどのような挙動を示し、これが継手性能にどのように反映されるかについて基礎的知見を得るため,錫
の拡散接合界面における酸化皮膜をTEM観察し,接合条件や表面処理によってどのように変化するかを調べている。
その結果、錫の融点直下まで酸化皮膜は、接合界面に残存し、接合強さに悪影響を及ぼすこと、HClおよびHF蒸気への暴露によって表面をハロゲン化処理
することにより、Sn-O-X ( X=H or F
)化合物が形成され、これは非晶質で錫酸化皮膜に比べて低温で凝集粗大化し、清浄界面を増やす効果を持つことを見出した。さらに、錫と低温の共晶点を持つ
Biを中間層とすることによって、界面領域に液層を形成させ、これが酸化皮膜の分布と形態にどのような影響を及ぼすかを検討している。
3.二相ステンレス鋼のシグマ相脆化と水素脆化との相互作用 
内部摩擦試験と破面解析により、329J3L二相ステンレス鋼溶接金属中の水素の挙動におよぼすσ相の影響について検討を行った。溶接したままの場合
は、γ相中にほとんどの水素が固溶するが、1023Kへの再加熱によりσ相が多量に析出すると、その中に水素が固溶またはσ/γ相界面に水素がトラップさ
れることが、内部摩擦試験により判明した。σ相が析出した溶接金属の水素割れの破面解析により、σ/γ相の界面のσ相の存在が、優先的な水素割れを生じさ
せていることからも、σ相と水素の相互作用が生じていることが示唆された。
4.二相ステンレス鋼溶接熱影響部の衝撃破壊挙動 
二相ステンレス鋼の溶接熱影響部における組織変化と脆性破壊挙動の関連および脆性破壊におけるγ相の役割を三次元破面解析から明確にしたものである。溶
接熱サイクルによるピーク温度の上昇と共に、γ相の分布間隔が広くなり、液体窒素温度での破壊は、せん断的なものから、α粒のへき開破壊主体のものへと変
化した。へき開破壊のフアセットの方位を三次元像で測定したところ、いくつかの隣接したフアセットがほぼ同じ方位を示し同一のα粒に属するものと見なされることから、γ相の存
在によりα粒は細分化されてへき開フアセットが小さくなり、そのため靭性劣化と軽減していることが分かった。
5.各種アルミニウム合金と鋼の摩擦圧接 
Al-Mg合金5052、5083と軟鋼との摩擦圧接において接合界面の金属間化合物層は、厚さ200nm以上で界面強度の低下の支配因子となり、この
厚さと界面強度との間には、両者の合金の強度差や摩擦条件にほとんど依存しない直接関係が成立することを示した。これと比べて、純アルミニウムと軟鋼との
継手は、同じ化合物層厚さでもはるかに低強度で破断した。その原因として化合物層の構成層の違いをTEM観察に基づき検討した。
6.異種金属の摩擦攪拌接合

摩擦攪拌接合は、現在工業的に用いられている接合法の中では最も近年に開発されたものであり、アルミニウム合金を中心に適用範囲の拡大が試みられるてい
る。しかし、異材接合への適用は、一般にその固相接合法としての特徴を生かせる分野と見なされているにもかかわらず、検討例は少ない。
本研究では、アルミニウムと鋼材および銅との重ね継手に摩擦攪拌接合の適用を試み、接合条件と継手性能、接合部組織の関係を調べた。その結果、まず高強度
の継手が得られる条件範囲を求め、異材重ね継手へ摩擦攪拌接合の可能性を示した。組織観察の結果、接合界面領域の金属間化合物の形成が接合強度の上昇を妨
げる要因であり、高強度の継手を得るためには、金属間化合物の形成を制御しつつ、接合面の密着化を達成する必要があることが分かった。さらに、亜鉛引き鋼
板では同条件で接合した鋼と比べ、アルミニウムの鋼材中への巻き込みが軽減され、金属間化合物の形成が抑制されるため、高強度の継手が得られることが分
かった。この亜鉛の効果に注目し、亜鉛箔をインサート材として用いたアルミニウム/銅重ねFSWを試みた結果、同様の効果によって接合界面における金属間
化合物の生成量が減少し、これに伴い継手の破断荷重はインサートなしの場合の約3倍に向上した。
7.ガラスと金属の陽極接合と、継手への逆電圧印加の影響 
金属相のコバルトとCo酸化物が混在する膜で被覆したKovar合金とホウケイ酸ガラスを陽極接合し、いずれの部分でもガラスとの良好な密着が得られ、
金属相コバルトの部分では接合界面に厚さ10〜20nm程度のコバルト酸化物層が生成することを見出した。
接合表面近傍のNaをAgと置換したホ
ウケイ酸ガラスとシリコンとの陽極接合継手に逆電圧を印加した場合に界面近傍のガラス中に析出する銀粒子の形態を観察し、接合時間、逆電圧、逆電圧印加温
度の増加がいずれも析出物の微細化をもたらすことを見出した。
8.オーステナイト系ステンレスSUS316鋼管の表面加工組織 
SUS316鋼のSCCに表面機械加工が与える影響を検討するため、プラント実機の製造過程を想定した曲げ加工を加えた鋼管の内表面をTEMにより観察
した。単純に曲げのみが加わった部分は無加工のもと大差はなかったが、ジグで強く摩擦された部分では表面下深さが約1µmの範囲にわたって微細結晶粒層が
生成し、またその層中に加工誘起マルテンサイトが形成されることを見出した。ナノインデンター測定の結果、この部分は著しい加工硬化を受け、表面近傍では
HV300を越える硬さであることが示唆された。 |