ヘリウムティグアークプラズマ (左図: 金属蒸気無し, 右図: 金属蒸気有り)
ティグ溶接は、1万度を超える高温のアークプラズマを熱源としたアーク溶接法の一つであり、ものづくりの基幹技術として幅広く利用されています。アーク溶接法では、溶融させた金属や電極の酸化を防ぐためにアルゴンやヘリウムといった不活性ガスをシールドガスとして流します。上の写真はヘリウムガスをシールドガスとしたティグアークプラズマの外観写真を示しています。金属蒸気が発生しない水冷銅上(左図)では赤いヘリウムアークが維持されますが、金属蒸気が発生する場合(右図)では青いアークに変貌してしまいます。この青く発光している領域は金属蒸気の存在を示唆しており、電極側から母材側へとシールドガスが流されているにもかかわらず、金属蒸気が遡上して母材の溶融池表面からアークプラズマや電極まで輸送されているように見えます。このように金属蒸気が輸送されたとき、電気伝導率や放射係数などのプラズマ物性は変化し、電極の消耗量も増大することが知られています。溶接品質を確保するためには、熱源であるアークプラズマだけでなく副産物的に生じる金属蒸気に関しても現象を正確に理解し、コントロールする必要があるのです。しかしながら、金属蒸気の輸送メカニズムは未だに謎のベールに包まれています。私は様々なスペクトルが混在するアークプラズマ中の特定粒子のスペクトルを二次元イメージで捉える"イメージ分光計測"を駆使し、金属蒸気の輸送現象の解明に取り組んでいます。