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Interview

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FSSW技術を世界で初めて確立
交渉力も重要 相手の立場から考える/藤本光生氏
(川崎重工業技術開発本部 プロセスエンジニアリングセンター
 副センター長 理事)

 川崎重工業技術開発本部プロセスエンジニアリングセンターで副センター長を務める藤本光生氏は大阪大学工学部溶接工学科、同大学院を経て1992年に川崎重工業に入社。造船からプラント、自動車まで同社製品の要となる溶接技術の開発を担ってきた。中でも摩擦攪拌点接合(FSSW)のロボット化と自動車車体への適用を世界で初めて実現し、FSSWの可能性を大きく広げた。現在は技術開発本部の副センター長として組織をまとめる。これまでの技術開発と今後の接合研に期待することを藤本氏に聞いた。(聞き手は大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻博士後期課程3年・接合科学研究所藤井研究室の川久保拓海さん)

溶接の道に進んだ経緯を教えてください。

 大学院では電子ビーム溶接によるクラッディングの研究を行っていました。恩師は富江通雄先生、阿部信行先生です。地元の兵庫に近い場所への就職を考えていましたが、大阪大学の教員から川崎重工に移り、その後常務を務めた松井繁朋さんの特別講義を受け、その内容がとても面白かったことも入社の要因となりました。入社後は、明石技術研究所の神戸工場分室に配属となり非破壊検査の担当になりました。検査ははじめてでとまどいもありましたが、検査の立場から溶接を考えるというのは貴重な経験となりました。企業で溶接技術を開発する人間は、一度は下流工程である非破壊検査を学んだほうが良いと思います。今でも会社では新人には最初に検査に携わらせ、検査の立場からだと溶接をどのように考えるのか?ということを教えています。タンク内部の検査では、当時の新しいUTの探傷器を使って、温度が40度を超えるようなタンクの中で、パソコンにスポットクーラーを当てながら検査をするということもありました。関わった船舶の試験航海に同乗するといった経験もしています。全国の現場を回ることができ、やりがいとともに面白かったです。その後は自動化やロボット、摩擦攪拌接合などを経験し、メガフロートのプロジェクトにも加わりました。その時のプロジェクトでは、参画していた他社の技術者にも接合研OBの方がたくさんいて、あらためて接合研の力を感じることができました。溶接学会には大学の3回生から入っています。最近はあまり参加できていませんが、とある全国大会の時に、東北大学の粉川博之先生から声をかけていただいたのがきっかけで、2008年に東北大学でドクターの学位取得をしました。テーマはアルミニウム合金摩擦攪拌点接合の開発に関する研究です。

FSSWの開発の経緯はどのようなものですか。

 当時、社内の生産工程で抵抗溶接や点接合はあまり使っていなかったこともあり、当初から自動車メーカーへの市販化を見据えていました。担当者として客先の工場に駐在のような形で入ることになりました。接合するだけであれば実験室レベルで我々にもできますが、実際の生産ラインで使った時にどのような問題が起きて、そこを解決することができるのか。そこでは相手との協力と信頼関係が必要になります。客先の担当者に大学の同級生がいたことも偶然ですが助けになりました。結果としてフロントフードとバックドアの接合部に採用され発売にいたります。プロジェクトの開始からラインの立ち上げまでは約2年でしたが、様々な耐久試験などであっという間に感じました。品質管理に対する合理的な考え方も多く学びました。

他社との開発競争はどのようなものでしたか。

 他社は長尺継手のFSWで、当社は点接合のFSSWと棲みわけができていました。ただしFSWの基本特許を持つTWI(英国溶接研究所)や、ドイツで点接合を行っていた研究機関や企業との交渉に知財部とともに同席することはありました。溶接の技術者や研究者にとって国内、海外を問わず交渉力が必要となる場面は必ず出てきます。こちらの意見を一方的に主張するのではなく、「逆の立場に立った時にどう見えるか」ということは考えていました。交渉で難しい場面になったような時には「どのような経緯で現在の状況になっているのか」ということを振り返って考えることは行ったほうがよいと思います。

FSW、FSSWの今後はどのように考えていますか。

 これからさらにもう一皮剥ける技術だと思っています。自動車の異種材料接合はリベットやクリンチングが使われていますが、一般車でこれだけコストの高い工法を使っていくことは考えにくいです。コストや軽量化、継手性能の観点からみてもFSSWの優位性は高いです。腐食に関してもうまく接合部にシールをするなりすることで解決できると考えています。

組織のリーダーとして心がけていることはありますか。

 メンバーそれぞれが自身の力を120%だせる環境を整えることです。コロナ禍でここ数年は難しかったですが、やはりコミュニケーションが重要で、その人は普段何を重要視するタイプなのかといった点は、プロジェクトチームを作る場合に考慮をしています。社内に打合せするスペースがあり、そこで部員と些細なことでも対話をするように心がけています。一緒に仕事をする人たちがやりすく、ベストを尽くせるようにするためにはどうすればよいのかを考えています。

今後注力する技術は何ですか。

 当社としては水素エネルギー・液化水素に関わる溶接技術の開発です。国家プロジェクトでもあるので、今後は認証や規格などでの産学連携が重要となると考えています。

後進に向けてメッセージをお願いします。

 接合研や若い先生方にはとても期待をしています。その一方で一極集中が進みすぎるのは溶接界にとっては良くないです。全国の大学や研究機関に溶接が広がっていくことも重要です。接合研が中心となりながらも、外に自ら広げていく取り組みをしていただければと思います。接合研の先生方は自分の研究領域を広げるアピールを企業に対してもっとして良いと思います。我々企業としては先生方の専門性と中立の立場での意見をお聞きしたいです。多くの企業で溶接の主要なポジションに接合研のOBがたくさんいます。若い人は先輩にとにかく何でも聞いていったよいと思います。応えてくれないこともあるが気にせず聞けばよいです。聞くのはタダです。きちんと尊敬、尊重した態度を持てば協力してくれると思います。接合研には私自身、個人的な思い入れが強くあります。全国の研究機関や大学に研究拠点を設けることで溶接分野の裾野を広げ、その中核を担う存在として今後も期待しています。