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Interview

  

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片山聖二先生(接合科学研究所 第12代所長 名誉教授)に聞く

長年にわたり材料科学的な見地からレーザの研究に取り組んでこられ,接合科学研究所第12代所長を務められました片山聖二名誉教授に,本研究所の大学院生 藤尾駿平さんからこれまでの研究の変遷や所長時代の思い出,また後進らへの期待などについてお話をうかがいました。

先生がレーザ研究を始めるようになったきっかけや,印象に残る研究成果,影響を受けた方について教えてください。

 研究者人生を振り返ると,配属された大阪大学溶接工学研究所の荒田研究室で松田福久教授(当時,助教授)と出会い,懇切丁寧な指導を受けたおかげであり,長きにわたり研究を続けることができたことに感謝しています。また,荒田所長(当時)の研究に対する集中と研究結果に対する鋭い指摘などを垣間見られたのも良い経験でした。配属直後は電子ビーム溶接の研究も少し手懸けましたが,修士・博士課程はオーステナイト系ステンレス鋼溶接部の高温割れに関する研究でした。
レーザ溶接・レーザ加工の研究を始めたのは,溶接工学研究所に1980年に圧接機構部門が増設され,1981年に松縄朗助教授(当時)の下で助手になってからでした。当時,研究室には200 WのパルスYAGレーザ装置が導入されていたのですが,2人ともレーザを扱ったことがなく,レーザ加工の研究をしたことがありませんでした。一方,超高エネルギー密度熱源センターには,最大出力5 kWと15 kWの連続発振のCO2レーザ装置がすでにあり,レーザ溶接とレーザ焼入れの研究をされていましたので,私たちはそれとは違うテーマに着目し研究を始めました。具体的には,レーザ溶接時のレーザ誘起プルームの特性解明,レーザビームとプルームとの相互作用の解明,レーザによる蒸発現象を利用して,各種の金属や合金,酸化物・窒化物系セラミックス,金属とセラミックスの混合など,いろんな超微粒子の作製に取り組むとともに,窒素ガス雰囲気中でレーザを照射する短時間レーザ窒化表面処理法の開発などの研究でした。
 また,パルスレーザ照射によるスポット溶融部が超急冷により急速凝固することから,ステンレス鋼のミクロ組織が通常のTIGアーク溶接とは大きく異なることを明らかにし,シェフラーの組織図を修正した急冷用ミクロ組織図を世界で最初に作成しました。その図を米国の研究者がKatayama & Matsunawa diagramとして国際会議で投影し,紹介された時は驚きました。その他,アモルファス表面層の生成についての研究は全国紙にも取り上げられました。
 その後,各種金属のレーザ溶接性の評価,レーザブレージング,リモートレーザ溶接,レーザ・アークハイブリッド溶接,低真空中でのレーザ溶接,各種金属のレーザ異材接合,金属とプラスチックのレーザ直接接合などを行い,溶融池内の湯流れ,ポロシティやピットの生成条件と生成機構,プルーム挙動とその影響など,多数の知見が得られたことに感慨深いものがあります。

アルミニウム合金のレーザ溶接法についても研究されていますね。

 米国・テネシー大学留学中,アルミニウム合金のCO2レーザ溶接性について研究し,帰国後,軽金属溶接構造協会(現・軽金属溶接協会)のレーザ溶接委員会で,「アルミニウム合金のレーザ溶接法」に関するプロジェクト研究に携わりました。パルスYAGレーザによるスポット溶接部や連続発振レーザによる高速ビード溶接部では凝固割れが起こりやすく,急速凝固を防止して液相の形成領域を狭くし,割れを低減させる必要があること,N2シールドガス中でA6N01合金のCO2レーザ溶接を行うと,溶接金属にAlN膜が生成し,割れ低減効果があること,また,A7N01合金のレーザ溶接ではミッシュメタル入りの溶融池を作製して相当量の共晶凝固を行うことで凝固割れを防ぎ,高強度の溶接継手が作製できることを明らかにしました。さらにレーザ溶接中の溶融池内部をX線透視法で観察し,湯流れやキーホール挙動と気泡の発生・移動状況を世界で初めて明らかにし,ポロシティの発生機構の解明と防止策を開発しました。このほか,アルミニウム合金と鉄鋼材料のレーザ異材溶接でも興味深い成果が得られています。

モニタリング技術やハイブリッド溶接法に着目した研究でも様々な成果を収められていますね。

亜鉛めっき鋼板レーザ重ね溶接時やアルミニウム合金レーザ溶接時のインプロセスモニタリングに着目し,溶接結果とレーザ反射光の振動数に関連性があることや,モニタリング信号でアンダフィルの形成につながるスパッタ生成の検出が可能であることなどを明らかにしました。このほか,Ni基単結晶合金のレーザ表面溶融法やレーザ補修溶接・プロトタイピング法の開発を手がけましたが,今流行りの積層造形法や3Dプリンティングの先駆けとしての研究で研究時期が少し早すぎたのかもしれません(笑)。
 一方,ステンレス鋼ではTIGアークと,アルミニウム合金ではMIGアークとのレーザハイブリッド溶接法を手懸け,気泡の発生抑制や気泡が排出される仕組みなどについて新知見を得ることができました。特にレーザ・TIGアークハイブリッド溶接では,高速度ビデオとX線透視法の活用で,溶接中のアーク挙動やレーザ誘起プルーム挙動,溶融池表面や内部の湯流れとキーホール挙動などを詳細に解明することができました。
この頃,研究室名をレーザ接合機構学分野に変更し,10 kWファイバーレーザも導入されましたので,いつか『レーザ加工のメッカにしよう』という想いがさらに高まりました。当時,マグネシウム(Mg)合金のレーザ溶接や鉄鋼材料とMg合金のレーザ異材接合,亜鉛めっき鋼板の重ね溶接,ダイキャスト材のレーザ溶接性,16 kWディスクレーザを活用した高張力鋼厚板のレーザ溶接やレーザ・MAGアークのハイブリッド溶接にも取り組んでいました。接合研が開発した高輝度X線透過型溶接現象4次元可視化システム(世界初)で溶接時の湯流れやスパッタ形成状況を明確化したほか,大型放射光(SPring-8)を利用することで,気泡の発生・消滅など新発見をしましたが,今後まだレーザ溶接現象やレーザ加工現象の解明に利用できると考えています。
 20 kWファイバーレーザと炭酸ガスアークのハイブリッドによる厚鋼板溶接や,世界最大出力の100 kWファイバーレーザ装置を用いた研究プロジェクト,あるいはリモートレーザ溶接など,携わった研究それぞれに思い出があります。また金属とプラスチックやCFRPのレーザ直接接合の可能性や実現性・重要性を念頭にレーザ異材接合にもトライし,そのメカニズムを解明し,高強度な継手作製を可能としました。このように広範囲のレーザ加工の研究に携わることができたのも,歴代所長と松縄朗教授の理解と協力,そして川人洋介准教授(当時)や水谷正海技官(当時),共同研究員,大学院生ら,多くの方々のサポートと熱心な研究のお蔭であり,深く感謝しています。

接合研所長時代の学内運営業務や対外的な活動など,印象に残る出来事について教えてください。

 所長に就任した頃,接合科学研究所は溶接・接合に関する唯一の国立大学法人の研究機関(COE:Center of Excellence)として認められており,様々な国家プロジェクトをはじめ,産業界との共同研究や受託研究が積極的に行われていました。所長としての業務は,副所長や事務長,執行部の多大な協力もあり,遂行できました。特に,助教や准教授の若手の研究者の方々が積極的に研究できるように,研究室の研究費とは別に自由に使える研究費を幾分多く配分しました。また,工学研究科のマテリアル生産科学専攻の先生方とも積極的に交流を図りました。ただ,接合研では,多岐に及ぶ業務内容に比べて教職員数が少なく,先生方の負担が多くなり,これを改善できなかったのは心残りです。
  一方,嬉しかったことは,平野俊夫総長(当時)ら大学執行部の見学を受けた際,接合研の最先端の大型装置を紹介するとともに,学術論文数などの研究活動,特に優れた研究成果や外部資金獲得状況を説明し,非常に高い評価をいただいたことです。また,広域アジアものづくり技術・人材高度化拠点形成事業では近藤勝義教授,西川宏准教授(当時),勝又美穂子特任准教授(当時)らが熱心に取り組んでいただき,海外でのインターンシップを経験した院生らの成長を実感できたこと,そして現地の教授や院生らと親交を持つことができたことが良い思い出です。

現在の接合研をはじめとしたレーザ研究者・技術者に対するエールや,今後の接合に期待すること,また,先生ご自身が現在取り組まれている活動などを教えてください。

 接合科学研究所でのレーザ加工の研究は,荒田先生や松縄先生が世界的に活躍されてきたことから,常に,世界トップであることが期待されています。接合研は,意欲があれば,いくらでも研究ができる非常に恵まれた研究機関です。先生方には日本の研究をリードするだけでなく,世界的にも活躍されることを期待しています。新しいレーザも開発されてきており,レーザ溶接の研究もまだまだ不明な点も多くあり,各種の高速度観察・計測装置,SPring-8などを利用して解明をお願いします。「これを解明しよう」,「これを開発しよう」という強い意欲をもって研究をして頂くのが一番の希望です。ただし,基礎的な研究と実用化研究をバランス良く遂行されることが重要と思っています。接合研の先生方や接合研で学ばれている学生・院生・共同研究員の方々にもご活躍を大いに期待しています。
 私は現在,レーザ異材接合をはじめ,レーザ溶接性に及ぼすビームモードの効果,モニタリング法の開発等に携わるとともに,セミナーや講演会,講義などを通じてレーザ加工やレーザ溶接の普及に努めています。今後は,とくにレーザ異材接合の実用化に注力するとともに,「レーザ溶接」に関する詳細な教科書的な日本語の本も執筆したいと思っています。