大阪大学 接合科学研究所

創立50周年記念サイト

HOME/ 記念式典/ 接合研50年のあゆみ/ 次の50年に向けて/ インタビュー/ ギャラリー/ 記念事業基金の募集

大阪大学 接合科学研究所

創立50周年記念サイト

Interview

→ 戻る

研究対象としての魅力を伝えたい/溶接人材の強みは異分野連携
三上欣希教授(接合科学研究所 接合構造化設計学分野)
門井浩太准教授(接合科学研究所 接合組織評価学分野)

 今年創立50年を迎える大阪大学接合科学研究所。これからの接合研を担う研究者はどのような未来を描いていくのか。三上欣希教授、門井浩太准教授にお話を伺いました。

お二人が溶接に携わるきっかけを教えてください。

 

三上(写真 右側)

 三上・当初はロボットの研究がしたいと思い大阪大学工学部に入学しました。将来の選択肢が広がりそうだと考えて生産科学コースを選び、縁あって豊田政男先生の研究室に進むことになり、溶接力学に興味を持ちました。卒業論文で建築鉄骨溶接部の研究を行い、その後は溶接冶金と力学の境界領域などの研究など、さまざまなことに取り組むことができました。その後、工学部の教員を経て2017年から接合研に所属し研究をしています。現在は、社会基盤工学を担当する研究室におり、期せずして卒業論文に近い分野に再び関わることになりました。

門井(写真 左側)

 早稲田大学理工学部で鋳造・凝固を専門とする中江秀雄先生の研究室で博士課程まで学び、その後、広島大学工学研究科の助教(篠崎賢二先生の研究室)に採用され本格的に溶接研究に取り組むようになりました。当初は鋳造と溶接では「溶けた金属を何と呼ぶのか」など用語の使い方が異なることもあり苦労をしました。研究では顕微鏡や解析装置の進化が急速に進み、誰も見たことのないような組織を見つけていくのが宝探しのようでもあり楽しかったです。広島大学の助教を経て2016年12月から接合研に所属しています。

現在の注力分野を教えてください。

  

三上

 溶接部の力学が主なテーマです。材料組織の変化や変形・残留応力など、溶接の影響を加味することで、評価や設計のアップデートを図りたいと考えています。豊田研在籍時には望月正人先生、大畑充先生にも指導をしていただきました。当初から任せていただけるタイプの先生で、そこで自分で考えるスタイルを構築できたのが今振り返ると生きています。望月先生が専門とする残留応力と、大畑先生の破壊力学の二つを研究室の中で経験できたのは大きかったです。

門井

 溶接冶金・材料科学を基軸とし、凝固などの組織形成過程や割れなどが主なテーマです。冶金現象の制御による信頼性や各種特性の向上、これらの予測を目指した研究に取り組んでいます。私が学生から教員になった時はリーマンショックを経験しながらも、パソコンをはじめ、計測・分析器や顕微鏡が大きく進化をしました。この20年間で一気に産業革命レベルで変わってきたと言っても過言では有りません。データを取るために丸一日かかっていた演算が今では2時間程度でできます。 SPring-8や4次元エックス線カメラなど、まさに百聞は一見にしかずで、様々な現象が見えるようになりました。

接合研の強みはどのようなところですか。

 

三上

 50年間にわたり脈々と続く伝統のつながりが大きいです。これまでの共同研究では先輩方に非常に助けてもらいました。この点は今の学生も同じだと思います。また一人ひとりの研究が社会や産業界で役に立っているという実感を持ちやすいところも特徴です。ただし、こういった長所が一般の人や阪大を志望する高校生に充分に知られていない状況にあります。将来は「接合研に進みたいから阪大に来た」という状況になってほしく、そのためのPR活動を接合研として行っているところです。

門井

 阪大や接合研に人材や設備が多く集まっているのが強みだと思います。他の環境であれば年に数回しか会えないような人でも、すぐに学内で話ができるというのは大きいです。ただ逆に言えばその分、閉鎖的になりがちとも言えます。もちろん学内で研究を続ける中核となる先生の存在は必要ですが、若い人は一度外に出て違う世界を知ることも大事なのではと思います。

今後溶接研究をさらに広めるにはどのようにすれば良いと思いますか。

三上

 溶接部の力学の話を他分野の研究者とすると「そんなに複雑なことも考えているんですか!」と興味を持たれることが多いです。現在も溶接に軸足を置きながら外に出ていく人や、逆に入ってくる人はいますが、相対的には入ってくる人が少ない。他分野の人であっても積極的に所内に迎え入れる雰囲気をもっと出せるとよいと思います。

門井

 溶接以外の分野のコミュニティでも活躍できる溶接研究者が増えることも、溶接研究のプレゼンスの向上になります。また、早稲田、広島、大阪で大学に求められる役割が異なることも感じました。各地域で溶接分野の核となる大学や先生がいるのが理想ですし,私自身も、これまでの人脈も活用・拡大しながら、プロジェクトなどを通して広げていきたいと思っています。

将来に向けてはどのように考えておられますか。

三上

 我々世代が楽観的過ぎるのも良くはないと思いますが、溶接の研究はやはり面白いです。溶接はある意味で希少性がある領域で、溶融現象と力学、熱や冶金が絡み合っているからこそ、組み合わせや研究のアプローチの仕方で独自性がすごく出る学問だと思います。門井先生の言う宝探しのように、見つけることの楽しさが溶接にはずっとあって、そうした研究ができるのは幸せなことです。この楽しさをさらに伝えていく必要があります。単に研究対象として魅力があるというだけでなく、溶接は実際に社会の役に立つという実感が得られるのが大きいです。

門井

 私は当初の研究だった鋳造から溶接に入りましたが、溶接は本質的に異分野融合でないと成り立たない学問と感じます。プロセス・材料・力学など広く物事を知って自分の専門を深めていくことが重要となります。また研究を産業の成果に結び付けやすいというのは、学生を指導する際のモチベーションになりやすく、溶接の研究・教育の強みの一つだと思います。

三上

 現代のように社会が大きく変わる状況で、素材や規格・基準を見直す状況も生まれる中、そこに対する貢献ができるのは溶接ならではだと思います。社会変革の意思決定領域に関わる人材を接合研から送り出したいという思いがあります。接合研や溶接出身の人は他分野とうまく連携ができる素質を持っていると思うので若手研究者・技術者や学生も自信をもって挑戦してほしいと思いますし、自身もそのようにありたいと思います。

門井

 今後、異種材料接合やリサイクルの研究が重要となってきます。材料が寿命を迎えた時にどのように再利用につなげるのか。今後ゼロカーボン・スチールなどの技術変革が起こったときに、溶接はどのような対応ができるのか。多くの研究領域と可能性が残されています。

三上

 接合研は小さい組織であることを生かしたスピード感や意思決定の明確さがあり、在籍する研究者としても自由度が高いことが強みです。溶接の伝統を受け継ぎつつ将来に向けてさらに広げていきたいと思います。