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Interview

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キーパーソンに聞く/上山智之氏
(大阪大学接合科学研究所同窓会初代会長/ダイヘン常務執行役員技術開発本部長、1987年院卒)

 大阪大学接合科学研究所(接合研)の創立50周年を機に、2021年11月、接合研同窓会が発足しました。当同窓会は接合研の更なる発展を目指し、国内外の様々な分野で活躍されている卒業生をはじめ、在学生や教職員ら関係者の親睦や交流を通じ、会員相互の「つなぐ」活動を展開していきます。初代会長に就任された上山智之氏は「人とのつながりを大切にし、気心を通じ合える仲間が集う同窓会」を標榜し、時代に即したSNSの活用や見学会など、様々な企画や運営手法を検討されています。長年、溶接プロセス・溶接機器開発に従事され、今年7月東京で開催された国際溶接学会(IIW)年次大会・国際会議では、先進的な溶接技術の開発に貢献した者として名誉あるゲディック賞も受賞されました。今回、当研究所講師の古免久弥先生が、上山氏に技術者・研究者としてのあゆみをお聞きするとともに、これからの接合研への期待や同窓会会長としての抱負などを伺いました。

まずは、IIWでのゲディック賞受賞、誠におめでとうございます。

 ありがとうございます。思いもよらぬ今回の受賞をとても光栄なことだと受け止めています。今回の受賞は、決して私だけの業績ではなく、日本の製造業や溶接機メーカー全体の技術を評価していただいたのだと非常に嬉しく思っています。最初にIIWに参加したのは1993年でした。それ以来、アーク溶接プロセスの委員会を中心に、国内外の多くの方々からご支援・ご協力,様々なアドバイスをいただけたことは技術者・研究者冥利に尽きるものであり、本当に感謝しています。この賞に恥じぬよう、これからも精進していく所存です。

上山氏が技術者・研究者を志したきっかけ,特に溶接工学に進んだ理由はどういうものだったのでしょうか?

実は、大学に進学する前の1年半くらいの間、友人の父親が経営する鉄工所で溶接士としてアルバイトをしていた経験があります。来る日も来る日も、船舶部品の被覆アーク溶接及び炭酸ガスアーク溶接を担当していました。ですから、溶接に関しては、多少の知識を持っていましたので、大学に進学する際は、「溶接科」のある大学を志望しました。当時、溶接科のある大学は大阪大学と職業訓練大学校(現・職業能力開発大学校)の2校しかなく、将来、溶接に関する指導員免許などの国家資格を得られるということで職業訓練大学に進学しました。それと、大阪を少し離れてみたいという想いがあったのも事実です。職業訓練学校に入学してから、溶接に関する技能教育を色々と学びましたが、そのうちに「もっと高度な溶接工学の知識を身につけたい」という気持ちが芽生えてきました。しかも、当時から溶接学会誌に掲載される論文や、溶接工学に関する様々な書籍・学術書の著者には大阪大学の先生方が多く、ある種のあこがれのようなものがあり、また、そのような先生方から直接教えていただきたいという想いがどんどん募っていきました。それが大学院進学を目指したモチベーションです。接合研での研究を通じ、多くの先生方から影響を受けましたが、中でも牛尾誠夫先生が当時取り組んでおられた炭酸ガスアーク溶接の低スパッタ化や、タングステン電極材料におけるアーク特性や電極耐久性に関する研究が非常に面白く、後年、ダイヘンを就職先に選択する一つの指針となりました。また、中田一博先生が取り組んでおられたアルミニウム合金、マグネシウム合金やクロムなど非鉄金属材料の溶接特性に関する研究は、ダイヘンに入社後、新溶接プロセス開発において大いにヒントをいただくなど、本当に感謝しています。

接合研時代の研究テーマや研究成果とは。

 松田福久先生の研究室に配属となった私は、中炭素Ni-Cr-Mo鋼のレーザ溶接時に発生する凝固割れの挙動に関しての研究に携わりました。当時、ある企業から機械構造用鋼の円周溶接をレーザで行うと凝固割れが発生するので、どうしたらよいかという相談を受けたことがきっかけです。研究を通して、レーザによる溶け込み形状サイズと凝固割れ感受性を高める不純元素硫黄(S)とリン(P)の含有率から物理的意義も考慮しながら割れ長さを推定する実験式を導き出しました。この研究成果は卒業後、修士論文成果として溶接学会論文やTransactions of JWRI、レーザ・電子ビーム溶接の国際会議(フランス)、Welding Internationalなどで発表,論文掲載されました。

接合研時代を振り返っての思い出や印象深い出来事とは?

 前述したように、入学前から実践で培った溶接の知識が多少ありましたので、接合研に配属されてからも先生方の研究に必要な治具製作や溶接作業などでお手伝いをさせていただきました。いろんな先生方と接し、また様々な研究手法や考え方、研究姿勢などを目の当たりにできたことは、私にとって今でも大きな財産であり、経験となっています。また内部進学ではなく、外部から接合研に来た私だったからこそ、先生方の講義や指導法がとても新鮮で、かつ、わかり易く面白く興味を抱かせてくれたのかもしれません。何よりも溶接界のスター教授が揃っているのですから、毎日、接合研に行くのが楽しかったですね。ただ、不安があったとすれば、そのような先生方や同級生に交じり、果たして学術的な考察に基づいた研究に付いていけるのだろうか、ということでした。英語力は相模原時代(職訓大時代)にアルバイトを通じて多少習得していたので、心配はしていませんでしたが…(笑)。それともう一つ、接合研の書庫に世界中の様々な文献や論文、書籍、関連資料などが揃っていることに感動しました。私にとって接合研の書庫は、魅力的な宝箱であり、暇さえあれば書庫通いをしていました。近年、ネット検索が当たり前の時代となっていますが、書籍に目を通し、活字と触れ合うことで、目的以外の色んな知識が自然と得られると考えています。そういう経験もあり、当社六甲事業所にも書庫を設け、若い社員らには書庫通いを奨励しています。

ダイヘン入社後は、どのような研究・開発に従事されたのですか。

 私自身が考える最大の研究成果と取り組みは、ダイヘンに入社して3年目に考案したウェーブパルス法(低周波重畳パルスミグ溶接法)の開発です。この開発は溶接プロセス(アーク現象,制御)だけでなく、冶金的にもアルミニウムの結晶粒微細化と凝固割れ感受性の改善やブローホールの防止に関する研究まで取り組むことができましたし、また松田研で学んできた研究手法や知識を最も生かすことができました。1990年の国際ウエルディングショー(JIWS)に出展し、バイクメーカーはじめ様々なものづくり企業の方々から興味を持っていただき、大反響となったのを覚えています。そして、この開発を機に、以後、中田先生とは長年に亘り、様々な共同研究・開発でお世話になりました。ダイヘン入社後も、1993~1996年のヨーロッパ駐在期間を含め、約35年間、接合研とは何らかの形で携わり、いろんな先生方や研究者との交流を通じ、新しいプロセスや機器の開発テーマやアドバイス、ヒントなどをいただいています。私にとって掛け替えのない存在だと感謝しています。これらいがいにも、これまで各種溶接機器・周辺機器をはじめ、タンデムプロセスやレーザ・アークハイブリッド溶接など、数々の研究開発にも携わってきました。

さて、2021年に発足した接合研同窓会の初代会長に就任していただいていますが、会長としての抱負や取り組みについてお聞かせください。

 まずは、会員相互に気心が通じ合える仲間を増やしていきたいと考えています。そのために新たなソーシャルメディアを活用して国内外の会員をインターネットでつなぎ、どこからでも気楽に参加できるような会運営を目指していきたいですね。1,000名を超える卒業生をはじめ、教職員や国内外の共同研究者など多くの方々が接合研に携わっていますが、現時点での会員登録者数は、まだ半数にも達していません。いろんな方々に呼びかけ・広報し、まずは80%くらいに引き上げたいと思います。また、そのような方々に、現在の接合研を知っていただくような見学会などのイベントも実現したいと考えています。田中学所長らは将来的には、接合研内に『歴史館』を創る構想をお持ちのようですが、これは非常に良い考え方です。ヨーロッパをはじめ、世界の大学研究室には古い溶接機や装置、資料などを大切に保管し、先人たちの歴史を大切にしています。常に新しい発想や着眼点、取り組みが求められる研究者ですが、『歴史に学ぶ』大切さを十分理解しなければなりません。将来、そのような施設が完成した暁には、内覧会や見学会を兼ねた同窓会も開催したいと思います。

現在、取り組まれているダイヘン溶接・接合協働研究所についてお聞かせください。

 当社は昨年、本研究所の主管事業部である溶接機事業部を溶接・接合事業部に改称し、本社の技術開発本部に接合技術開発部を設置しました。これによりアークやプラズマを熱源とする技術開発だけでなく、それ以外の研究開発にも精力的に取り組むようになりました。したがって今後は、これまでにあまり交流のなかった研究室の先生方とも協業による技術開発、製品開発を推進していくことになります。今年のJIWSで披露した固相抵抗も藤井英俊先生との共同研究の成果の一つです。近年、材料の多様化・高機能化に伴い、従来のアークだけでは解決できない時代となりつつあり、他の分野や違うプロセスとのハイブリッドも求められています。レーザやFSWなど、これからも様々な接合法の可能性に挑戦し、接合研からの研究テーマ提供を受け、当社が開発することで、社会実装への成功事例を積み重ねていきたいと考えています。

最後に、後進へのエール、メッセージをお願いします。

 若い人たちは、我々の時代、あるいはそれ以前の人たちに比べ英語力に優れ、学生時代から国際会議で発表・ディスカッションができるレベルを有しています。これはとても素晴らしいことであり、自信を持ってください。同時にご自身の研究を更に磨き上げて国際的に活躍できる研究者・技術者になっていただき、接合研の溶接・接合分野におけるグローバルプレゼンスをより一層高めていただきたいと思います。皆さんなら、それがきっとできると期待しています。